旅を考える

 人の唯一、憧れの中に「旅」と云うものがあります。小さい時に親に連れて行って貰った遊園地も、学校に入ってからの修学旅行も、それぞれに頭の中に残っているでしょう。長じて大人になるにつれ、その夢が段々幅広くなって、日本の国内は勿論の事、欧米やブラジルとかアジアの各地への旅を考える様になって来ます。旅は色々な知識や経験を与えてくれます。また各地の歴史や佇まい等で、狭い自分が育った土地以外の様々を教えてくれる、人間の成長に欠かせないものと思います。昭和等の昔と違い、交通手段も宿泊も、そして外国へ行く手続きも大変便利になった事は、誰方も御存知の事ですから、自分の都合が許せば、日本中、また近い所から遠い所まで視野を広める為にも試してみたら如何でしょうか。昔は全て大変な事で、外国へ行く事を「洋行」等と云い、命がけであったと云う事であります。今は十数時間もあれば、世界中のあちこちへ出かける事が出来ます。

 さて、旅とは行って観て知る他に、心の旅もあります。人の心はいつも何かを求めているものだと思います。学問だったり、望みだったり、愛情だったり、あらゆる事に思いを致し、叶う事を願います。例えば学びの場合、物事の成り立ちを知りたいとかメカニズムを知りたいと心が動いて、現実の世界とは少し離れた思考を楽しんだり致します。音楽の場合でも、チャイコフスキーやショパンが今に伝わる名曲を作る時の心理状態や環境を知りたいと頭の中でヨーロッパの風景を想像したり致します。これは皆心の旅だと思います。「桃太郎さん、モモタロウさん」と幼い子と歌いながら吉備団子を持った風景を話す時は、心の中で見た事のない世界を旅していると思います。色々重ねてそれが自分の感性になる事を知って、現実や思いの旅を試したら如何でしょうか。現実しか認めないと云う頑な人が居られますが、少し侘びしいと思います。豊かな感性を持ちたいものであります。同じ様な意味合いもあると思いますが、今生きている自分が、血の繋がった御先祖様を思い、今月の御盆の様な時に御一緒に癒されて優しいきもちになるのも、故のない事ではありません。自分の近くにおられた記憶に残る方は、その生き方や考え方等、すぐに思い出される場合もありますが、何代か前のお目にかかった事がない御先祖様でも、同じ苗字を継いでいる縁の方々の在りし日を思ってみたり、彼岸の地での御安堵を願う思いが届いて、子孫の自分を守って下さる様、親しく考えるのも、何百年を思い描く旅であります。

心が素直であるほど、旅はとてつもなく豊かな夢を与えてくれると思っております。自分だけの美しい旅が沢山できたら、人生幸せでありましょう。ただ気をつけるのは、勝手な思い込みや願いだけの旅であります。ノーマルな人になりたいですね。その旅はきっと素敵です。

何十年か前になりますが、私も両親と共にフランスやイタリア等に旅をし、また短期の留学も二年続けてスイスに滞在しました。その時の思い出は今もしっかり残っております。スイスの自然やイタリアの建築、フランスの街並み等は、やはり自分の目で見て、触れて感じた事が深く記憶に残り、知識としてだけではない、大袈裟に云えば細胞に残るものと感じております。

現在の仕事に就いて三十六年それがありありと動き出し、私の宝になっているのを強く感じます。様々な時に、自分を高め、価値のある人生になる様、歩く旅、心の旅、思う旅を心がけてみて戴きたいと思います。